「使われなくなった」イタリアのデッドストック生地、「着られなくなった」日本の着物、「作られなくなった」伝統工芸などを組み合わせ、アパレルブランドrenacnattaを展開している株式会社Dodici。ブランドコンセプトに込めた想いや、10年の節目を迎えて感じていることについて、代表の大河内愛加さんにお話を伺いました。
私自身、伝統産業が苦しい現状を知りつつも、個人でそれを守る術がないこと、一人でできることには限りがあることに、もどかしさを感じてきました。そんな中でrenacnattaの存在を知り、活動内容に深く共感し、今回の取材に至りました。伝統産業と関わるものづくりについてお話を伺うなかで、伝統を守るための新たな切り口が見えてきました。(土井)
訪問者:株式会社ピューズ 2026年度入社 土井里桜
訪問先:株式会社Dodici 代表 大河内愛加さん

インタビューの様子 土井(左)、大河内さん(右)
ファッションではなく、「文化」を売る
―renacnattaブランドの「文化を纏う」というコンセプトや、伝統工芸品を活用した取り組みについて、改めて教えてください。
大河内さん:実は、伝統工芸との取り組みは、ブランドを立ち上げた当初から行っていたわけではありません。最初は「デッドストックを活用したい」というところから始まっていて、伝統工芸のことはあまり意識していませんでした。私がブランドを立ち上げた2016年当時、イタリアのミラノに住んでいて、郊外にコモというシルクの名産地があります。そこでデッドストックのシルクがたくさん眠っていることを知って、「これを活用したい」と思ったのが出発点でした。一方で、日本では着物が着られなくなって、着物地がデッドストックになっている現状も知っていました。
そこで、「イタリアのデッドストックシルク」と「日本の着物地」を組み合わせたリバーシブルスカートを作ろう、と考えたのが、本当に最初のきっかけです。
ただ、当時は「言いたいことがたくさんあるブランド」でした。イタリアと日本のデッドストックを組み合わせたリバーシブルスカートであること、今私が着ているような巻きスカートで、体型を問わず着られること……。それは私自身、小柄で、市販のスカートだとウエストがぶかぶかだったり丈が長かったりするコンプレックスがあって、そこから発想したデザインだったんです。そうやって、とにかく言いたいことがたくさんある状態でした。
でも、あるとき頭の中にあることを全部書き出して、「今、私がいちばん売りたいものは何だろう」と考えました。そのときに気づいたのが、「自分はファッションブランドをやりたいわけじゃない」ということだったんです。ファッションを勉強していたわけでもないし、たまたま日本と、10年住んだイタリアのものを組み合わせた何かを作りたかっただけで、たまたま思いついたのがリバーシブルスカートだった。
だから、「私はファッションではなく文化を売っているブランドなんだ」と考えるようになって、「文化を纏う」というコンセプトにたどり着きました。

伝統工芸との取り組みは、京都に拠点を移してから始めた取り組みです。ブランドを2016年に立ち上げて、2019年ごろに京都に拠点を移しました。それまではデッドストックばかりを使っていて、「誰がいつ作ったかわからない」生地を使っていた。でも京都に引っ越してきたら、「いま伝統産業で働いて、その技を残そうとしている人たち」がいることを知って、デッドストックの活用だけでなく、このような方々のお力にもなれるような取り組みを、自分のブランドでしていきたいと考えるようになったんです。
そこで、丹後ちりめんや西陣織を、一から作ってもらうようにしました。そうすることで継続的に生産をお願いできて、職人さんのもとにもきちんと対価が戻りますし、伝統工芸のこともいろいろな方に知っていただける。そうした取り組みを2019年から始めました。いまのrenacnattaは、デッドストックを使うコレクションと、伝統工芸の人たちと一緒にものづくりをするコレクション、その二本柱で展開しています。
日常に溶け込む伝統のかたち
―伝統工芸品そのものも、時代に合わせてどんどん進化しているんですね。
大河内さん:そうですね。ただ、私が本当に大切にしているのは、やっぱり織元さんの技術をきちんと守ることです。生地がポリエステルや綿に変わったとしても、織り方そのものは変わりません。西陣織の定義は「先染めされた紋織物」なので、糸の段階で色がついていることが前提なんです。糸に色をつけてから織るのが先染め、布になってから染めるのが後染めです。
例えば丹後ちりめんは後染めで、織元さんは真っ白な生地だけを織ります。それを後から手描き友禅で絵を描いたり、無地染めをしたりして仕上げる。一方で西陣織は先染めで、色のついた糸を何色も使い分け、織りの組織で立体的な柄を出していきます。私たちが扱っている西陣織も、綿やポリエステルの糸を使っていますが、プリントではなく、ピンクやグレー、水色など十数色の糸を織り重ねて、朽ちたような、ぼやけたニュアンスの柄を表現している商品もあります。ぱっと見は茶色に見えるけれど、よく見るとピンクが混ざっていたりするんです。

西陣織のスカート(左)、丹後ちりめんのトップス・スカート(中央・右)
西陣織の定義は「先染めされた紋織物」なので、「シルクでなければならない」「和柄でなければならない」といった決まりは本来ありません。抽象的な柄や、少しヨーロッパ的な唐草模様のようなデザインも許容されますし、素材もポリエステルで問題ない。ただし織りの技術だけは、西陣で受け継がれてきたやり方を崩さないようにしています。

また「金彩(きんさい)」という、着物に金の装飾を施す伝統技術も取り入れています。本来は高級な着物にだけ使われるもので、日常生活の中で触れる機会はほとんどありません。多くの人がその存在すら知らないまま人生を終えてしまうと思うのですが、それがとてももったいないと感じていて。
職人さん自身も「金彩をもっと知ってほしい」とおっしゃっているので、私たちはイタリアのシルク生地の上に、従来と同じ技法で金彩を施してもらい、アクセサリーやスカーフとして日常に取り入れられる形にしています。
金彩は水に弱く、洗えないので洋服には向かないのですが、そのぶんアクセサリーやスカーフとして身につけると、背筋が伸びるような、身が引き締まる感覚があります。うちの商品は、そうした背景を理解して選んでいただくことで、伝統工芸を日常の中で自然に楽しんでもらえるようなものになっていると思います。

イタリアのシルクに金彩を施したスカーフ
renacnatta10年の節目を迎えて
―2026年でブランドが10年目を迎えるということですが、この10年を振り返ってみていかがですか。
それでも、「着実に前には進んできたな」という実感はあります。例えば、京都市の「これからの1000年を紡ぐ企業」に認定されたことや、Forbes JAPANさんでカルチャープレナーに選んでいただいたこと、そして着物という大きなプロジェクトに取り組んだことなど、10年前の自分からは想像もできなかったようなブランドの姿になってきました。
この10年で「大きな一歩」を劇的に踏み出したというよりは、小さなステップをコツコツと積み重ねてきた、そんな時間だったと思います。振り返ると、「もっと上手くやれていたら、もっと大きくなっていたかもしれないし、広がっていたかもしれない」と思う瞬間もありますが、一方で「今の自分の働き方や生き方を考えると、これでよかったのかな」とも感じていて。
結果としては、「着実に積み重ねてきた10年だった」と言えるかなと思います。
―この10年の中で、特に印象に残っている出来事はありますか。
大河内さん:いまも続いていることなんですけど、うちは基本的にオンラインでの販売なので、お客さまと画面越しでのやりとりはあっても、実際にお顔を合わせる機会は、一般的な店舗と比べるとすごく少ないんです。
そんな中で、2〜3ヶ月に1回くらいのペースで東京でポップアップをしていて、東京にはお客さまがたくさんいらっしゃることもあって、毎回すごく印象的なんです。ポップアップが始まる前から列ができて、オープンすると空間が人でいっぱいになるんですよ。
その光景を見るたびに、この方たちはこのためだけに足を運んでくださったんだと思って、毎回じんわり感動してしまいます。ありがたいなぁ、本当にこのためだけに来てくれているんだろうなぁって。
しかも、いつもお借りしているのが、通りすがりの人がふらっと入ってくるような場所ではなくて、ビルの一室にあるギャラリーなんです。わざわざそこを目指して来てもらわないと辿り着けないような場所で。
それでも毎回たくさんの方が来てくださる様子を見ると、「やっていてよかったな」と心から思いますし、とても印象に残っている出来事ですね。

―今後のブランドとしての目標や、新しく挑戦したいことはありますか。
大河内さん:ブランドとしては、着実にもっと大きくしていきたいという思いがあります。ものづくりをしている人間が「お金」の話をするのは良くない、と考える方もいるかもしれませんが、私はお金を稼ぐことはすごく大事だと思っています。売り上げを立てるということは、同時に周りにお金を回すということで、うちがちゃんと「売れるもの」を作り続けられれば、丹後ちりめんや西陣織、金彩といった、着物業界の中で今苦しい状況にある産地や職人さんを支える一助にもなります。
自分自身のためでもありますが、関わってくれる周囲の人たちがみんな良くなることにつながるので、「きちんと売り上げを立てていく」ということは大きな声で掲げたい目標です。そのうえで、もう少し大きなブランドに成長させて、伝統工芸の世界でしっかりと認知される存在になっていきたいと考えています。
また、クライアントワークも積極的に取り組んでいます。「私にやってほしい」と言ってくださる方が増えたんですね。しかも、みなさん私のやっていることや背景を理解したうえで、「この伝統工芸を使いたい」「こういう文脈で一緒にものづくりをしたい」と相談してくださるので、内容が私のやりたいことのど真ん中であることが多いんです。
大量生産をひたすらこなすような仕事にはあまり興味がなくて、私が関わることで伝統工芸や地域の役に立つようなプロジェクトをやっていきたい、という気持ちが強いので、そうした依頼が来るのはとてもありがたいです。クライアントワークは、Dodiciという会社として今後も大事にしていきたい事業だと捉えています。
今は実際に、お皿のブランドを一から立ち上げたり、旅館の制服のプロデュースをしたりと、renacnattaというブランド単体ではできないことを、クライアントワークの中でたくさん経験させてもらっています。それも含めて、すごく恵まれた環境だと感じています。
―ものづくりを通して、伝統工芸を守りながらも、新しい形で世の中に届けていく。これまでの10年と同じように、大きな一歩ではなく、小さなステップを着実に重ねながら、ブランドとしての存在感と役割を広げていこうとされているのですね。
所在地:京都市中京区雁金町373 みよいビル207
URL:https://www.renacnatta.com/
ーブランド概要(HPより引用)ー
renacnatta(レナクナッタ)は、「文化を纏う」をコンセプトに、日本とイタリアの素材や技術を組み合わせたブランドです。
ブランド名は、使われなくなった生地や、以前より作られなくなった素材や技術に新しい価値を与えるという想いに由来しています。
また、西陣織・金彩・手捺染・久留米絣・丹後ちりめんなど、日本の伝統工芸を受け継ぐ職人と協働し、希少な技術を現代の装いへと昇華しています。
